コロナウイルスと精神科 その1 サイトカイン

 世界中がコロナウイルス感染症にやられています。地球が感染してしまったというほどです。精神科の病院に勤める医師たちはひどく心配しています。なぜなら、入院患者さんの中に院内感染が広がらないかということです。面会や外出の制限をさせていただいても、無症状の職員がウイルスを持ち込む可能性が当然あるからです。
 普段から感染症を扱っている立派な総合病院の中でも、患者、医師、看護師が多く感染していますので、感染症をあまり診ていない精神科病院ではなおさら心配です。さらに、精神科の患者さんが合併症を起こした時にこころよく診てくださる内科病院もあり感謝する一方で、受け入れ会議とかで数時間も待たされる病院も未だにあります。精神科の患者さんを受け入れる難しさもあると思いますが、少しずつ改善され、平等に扱われるようになることを望んでいます。これらの件に取り組んでいらっしゃる病院、公的機関の職員の皆様には感謝申しあげます。

 さて、コロナウイルス感染症による肺炎がなぜこんなに急に重篤化するのかというと、サイトカインストームという現象が伴うからだといわれます。サイトカインとは、白血球などから分泌されるホルモンのような微小な物質で、さまざまな生理作用を生じさせるものです。炎症などを起こす作用があります。これらは、通常に働けば、傷害に対して適度な炎症反応を起こすなどして防御的に働くわけですが、何らかの理由で暴走してしまうと、自分自身の細胞を攻撃・破壊してしまうようになります。これがサイトカインストームです。

 サイトカインストームは、精神科で扱う病態の中にもみられます。典型的なのは、薬物の副作用ともいえる悪性症候群です。悪性症候群は、抗精神病薬服用中に、高熱、筋強剛(筋肉の弛緩性が失われる)、CPKという物質の増加や意識障害などが起こるものです。この時には、インターロイキンというサイトカインの一種の物質が増えているのではないかと思います。悪性症候群になると、急激に血液の中のアルブミンという蛋白が減少し、数か月をかけて、今度は、ガンマグロブリンという免疫に関係する物質(抗体)が増えてきます。抗体を形質細胞に作らせることを促進するのは、インターロイキンの一種だと知られているようですので、悪性症候群のメカニズムの中にサイトカインの働きがあると思っているのです。そうでもなければ意識がなくなるような病態にはそう簡単にはなりません。こんなことに興味を持つ方は少ないと思いますが、興味のある(医療関係者の)方は、「業績」にある論文を読んでいただきますと幸いです。

 だから、悪性症候群になった精神科の患者さんは、サイトカインストームをすでに経験しているということになります。では、サイトカインストームを経験した人は、次のサイトカインストームを起こしにくいのか? いや、残念ながら、そういうことはありません。悪性症候群の初期の研究者が、すでに、悪性症候群のリスクファクターの一つは、過去の悪性症候群だと統計学的に示しているからです。

 さて、精神科とサイトカインの関係は、それにとどまりません。また、私事で申し訳ないのですが、統合失調症において、血液の中のアルブミンとグロブリンの比と心理検査による認知機能に相関関係があることを何年か前にお示ししました。主に、グロブリンという主に免疫に関係する蛋白質の量が統合失調症の社会機能を左右する認知機能に関係していました。グロブリンの量を決めているのは、繰り返しになりますが、インターロイキンというサイトカインです。これは、どういうことかというと、統合失調症では、病期に、インターロイキンが変動するという可能性があり、つまり、一種の炎症が起きているのでhないかと想像できるのです。実際に、統合失調症は、脳の炎症に関係があると考えて、インターロイキンの量を調べたり、CRPという炎症の時に上昇する蛋白質のなかでも高感度なものを調べたりしている研究者がいるようです。

 ですから、コロナウイルス感染症の重篤化に関与するサイトカインの嵐に近いものをを精神科の患者さんは経験している可能性があります。では、精神科の患者さんはコロナウイルスに感染するとどうなるのか、重症化しやすいのか、軽症で済むのか、関係ないのか、はたしてどうでしょうか。ここで重要なことは、統合失調症の脳の炎症を抑える働きのあるのが、抗精神病薬であり、特に最近の抗精神病薬はその作用が適正なのではないかと思われます。だから、抗精神病薬を服用している精神科の患者さんはサイトカインが暴走しにくい、だから、コロナウイルス感染症も重篤化しない?わかりません。

 さて、ぜんそくの薬、シクレソニドという吸入薬がコロナウイルスの肺炎に効果があるとされていますが、シクレソニドは、ステロイド剤の一種で、ステロイドは免疫機能を弱めるものです。サイトカインの働きを弱める可能性があります。だから効くのかもしれません。

 分かっていることと、私のただの思い付きをお示ししただけで、これが正しいと主張する考えはありません。ウイルス感染、免疫、神経はそれぞれ関連しあっていることは確かそうですが、真実はどこにあるか、1年後には少しわかってくるかもしれません。

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