コロナウイルスが関与か? 精神症状とリンパ球数の関係について(医療関係者様向け)

はじめに

 精神疾患の悪化により、入院時にリンパ球が低下し、治療とともにリンパ球が改善した2症例を報告させていただきました。今回、リンパ球に注目したのは、コロナウイルス感染症での血液検査上の特徴の一つがリンパ球数の低下と報告され、たまたま血液像を検査したところ、別に発熱があるわけではないのに、リンパ球が低下している患者さんがいたからです。そこに注目して何人かの患者さんのリンパ球数を見たところ、病状が悪化して新たに入院した患者さんにリンパ球数が低下がしばしばみられたり、入院中の患者さんの再燃時にリンパ球が低下している人がいることがわかりました。

 内因性の精神疾患で、精神症状と何らかの血液検査所見が関係があるなどということは従来考えられないものです。100年も続いている、内因性精神病概念を壊してしまうからです。そのようなわけで、きちんと統計学的に検討しようと思いました。本来、論文にするべきですが、まず、ネット上で発表させていただきます。

対象と研究方法

 2020年4月1日から6月30日までの3か月間に1日でも入院していた人でかつ、血液像を調べた人をカウントしました。血液像は、なるべく入院時検査や毎月の定期検査の時に、血算5種に項目を各病棟に伝えましたが、かならずしも全員が採血したわけではありません。この血液像のデータ、生化学のデータもありますので、1人当たり、血算、血液像、生化学の約30項目の結果と性別、年齢、入院形態、入院期間、新入院か長期入院か、行動制限を受けたか、発熱したかなどを調べました。血液検査項目は、当院を検査を請け負ってくださっている浦和医師会メディカルセンターでCSVデータにしていただきました。行動制限(隔離と身体的拘束)は行動制限台帳で調べ、発熱は院内感染対策委員会議事録で調べました。それらを Exel に入力し、SPSS に移して統計解析を行いました。

結果

 検査は、282人に行われました。男136人、女146人です。このうち、F2圏(統合失調症圏)が73.4%、次にF3圏(気分障害圏)が11.0%でした。4月から6月に新たに入院した方は70人。それより前からいる方(4か月以上の入院)は 212人です。入院形態では、医療保護入院が、187人で66.3%、任意入院が88人で31.2%です。年齢は、18歳から93歳で平均年齢は 59.18歳(標準偏差14.11)です。また、この間に何回血液像を含む検査をしたかは人によって異なり、2回検査した人が218人、3回した人が58人、一番多い人でこの間に11回採血をしています。肺炎等で何度も採血する必要があった方です。そのため、全部の採血回数は 586回です。このため、Exel の行は 587行、横は56列となり、587×56=約3万3千個枠を埋めたことになります。

 また、この間に37.5℃以上の発熱が1日以上あった人は51人、18.1%です。38℃以上の発熱が1日以上あった人は34人、12.1%です。また、長期に入院している人の中には、陰性症状が主で安定している人(長期安定群)が186人、長期に入院しているがこの間に新たに行動制限(隔離または身体的拘束)を受けるようになった人(再燃群)が26人おり、新入院群70人と三群に分類できます。

 この三群を比較してみました。まず、新入院群と長期安定群の比較です。いろいろ見すぎるとわかりにくくなるので、リンパ球に限ってみてみましょう。

 検査会社から返ってくるのは、リンパ球率(白血球のうちのリンパ球の割合)です。白血球数と掛けるとリンパ球数もわかります。ただ、患者さんのデータをみると、一時的に低下するという現象がみられ、それがポイントだと思いましたので、その患者さんのある期間のリンパ球率の最低値が重要と考えました。4-6月の検査で最低のリンパ球率とリンパ球数に注目しました。

新入院群(N=70)長期安定群(N=186)
最低リンパ球率(%)27.731.0
最低リンパ球数(μL)17201763n.s.
表1 新入院群と長期安定群のリンパ球の比較(*:p<0.05)

 まず、新入院群と長期安定群の比較です。t検定を行い、平均値を示しました。(表1)
 新入院群は、リンパ球率が有意に長期安定群に比べて低下していました。リンパ球率の正常範囲は、25-45%とされています。

再燃群(N=26)長期安定群(N=186)
最低リンパ球率(%)25.931.0
最低リンパ球数(μL)14821763
表2 再燃群と長期安定群のリンパ球の比較

次に、表2をご覧ください。3月以前から入院し、この期間内に新たに隔離や身体的拘束という行動制限を開始した患者さんを再燃群としてカウントしました。再燃群は26人です。このように、長期安定群に比べて、再燃群はリンパ球率、リンパ球数とも有意に低下していました。このように精神症状の悪化とリンパ球低下の間に関係があるように思いましたので次の比較をしてみました。

行動制限群(N=68)非行動制限群(N=214)
最低リンパ球率(%)26.030.9**
最低リンパ球数(μL)15121795**
表3 行動制限群と非行動制限群のリンパ球の比較(**:p<0.01)

 4-6月中に1日でも行動制限(身体的拘束か隔離)があった方となかった方を比較してみました。(表3)これは、新入院、長期入院を合わせて、4-6月中に1日でも隔離または身体的拘束があった人を行動制限群としています。重症群と言っていいかもしれません。
 行動制限群の最低リンパ球率、最低リンパ球数は、行動制限されてない群より有意に低くなっていました。したがって、4-6月中に、行動制限群を1日でもするなど、重症の精神症状を呈した患者さんでは、有意に最低リンパ球率、最低リンパ球数の平均が低く、しかも行動制限群の患者さんの約半数近くのリンパ球が、正常範囲を超えて低下していたということになります。わかりやすく、図にしてみました。

 これは、驚くべきことではないでしょうか。内因性精神病の悪化の原因は不明です。だから、内因性精神病と呼ばれてきたのです。しかし、本研究では、精神症状の悪化とリンパ球の低下の間に有意な関係がみられました。精神症状の悪化した人ではリンパ球が低下していたということです。今までの常識を覆します。これは、コロナウイルスによるものとすれば、この時期だけになるはずです。しかし、それも問題があります。コロナウイルスが実際に言われているよりまん延しているということになりますし、コロナウイルスが精神病の悪化の要因であるということになり大変なことになります。もし、コロナが流行ってない時期にも精神症状の悪化時にリンパ球が低下していたら、これはもっと大変なことになるでしょう。

 身体的拘束や隔離に陥るケースの背景には、リンパ球数という生物学的な問題が関連しているということです。このブログでも身体的拘束について、気候との関係など、非心理的な要因について発表してきましたが、身体的拘束は、心理学的-環境学的-生物学的などの問題が複雑に絡み合って起こる現象だともいえます。したがって、看護師の技術の向上などの一面的でない取り組みが必要なのです。話がずれてしまいました。ごめんなさい。

 では、なぜ精神症状の悪化した群では、リンパ球が低下するのでしょうか? それは、炎症でしょう。脳の炎症。では、何による脳の炎症なのでしょう。リンパ球数の低下は、ウイルス感染でみられ、コロナウイルスの感染でもみられるのは周知されています。かといって、この期間にコロナウイルス感染症と診断された人はこの中にいませんでした。仮説ですが、図示してみましょう。

 右のような感じになります。ここまでお読みいただきありがとうございます。なお多くのデータ項目がありますので、少しずつ分析してご報告させていただきます。2020年8月20日

 次に、この間(4-6月)に37.5℃以上の発熱が1回でもあった発熱群について調べてみました。(表4)

発熱群(N=51)非発熱群(N=231)
最低リンパ球率(%)22.431.3***
最低リンパ球数(μL)13721805***
表4 発熱群と非発熱群の比較(***:p<0.001)

 これをみますと、発熱が1回でもあった群では、最低リンパ球率、最低リンパ球数とも有意に平均値が低下しています。この発熱群の数、51人というのは、例年に比べると多くなっており、ちょうどコロナウイルス感染症が流行っており、4月上旬から中旬にかけて多く見られました。肺炎になった方も数名いらっしゃいましたが、内科では細菌性肺炎と診断され治療されて回復しています。PCR検査を受けた方はいませんし、後にIgG抗体検査を行った人もいますがいずれも陰性でした。したがって、コロナウイルス肺炎とかコロナウイルス感染症とかと診断がついた人はいないのですが、時期的に非常にあやしいと思います。このへんもどうもコロナウイルス感染症のよくわからないところです。

 当院の発熱者数のピークは、上図のように3月30日ごろから4月7日ごろまでで、これは、永寿総合病院でコロナ感染のクラスターがみられた後に続きます。また、埼玉県全体のコロナ感染症患者のピークは1週間程度遅れています。これも検査数の問題がありますからずれているのかもしれないのですが。この2つの山がコロナの感染症ですので、当院の発熱者はコロナウイルスによると考えるのが普通の科学的な考えではないかと思います。しかし、証拠がまったくありません。罹患したら出るはずの抗体も出てません。

 さて、というわけで、発熱者は非発熱者とくらべて、リンパ球数の低下がはっきりしていたわけですが、これもコロナウイルス感染症の時にもみられる現象です。これからも、当院の発熱者がコロナウイルスと関連したものではないかということを示唆するものです。他のウイルス感染症でもリンパ球は低下するとか、細菌感染が起こっていれば、好中球が増加し、リンパ球率は相対的に低下するなどと反論もできましょうが、この時期に流行っていた他のウイルスとは何でしょうか?

新入院群(N=63)長期安定群(N=150)
最低リンパ球率(%)28.832.3
最低リンパ球数(μL)17941823n.s.
表6 発熱者を除いた比較

 横道にそれてしまいましたが、精神症状の悪化リンパ球との関係を見るときに、発熱者をのぞいておけば、精神症状とリンパ球の関係をより明確にできると考えました。そのため、発熱者(51人)を除いて、精神症状の悪化(新入院、行動制限)とリンパ球の関係を次にみてみましょう。(2020年8月26日追加)新入院群は、発熱群を除いても長期安定群に比べて最低リンパ球率が有意に低下しています。(表6)

行動制限あり(456月に)N=50行動制限なし(456月に)N=181
最低リンパ球率(%)28.432.1
最低リンパ球数(μL)15911864
表7 発熱者を除いた比較 456月に1回でも行動制限があったか

 次に、発熱者51人を抜いた上で、456月に行動制限が1日でもあった人とそうでない人を比較してみました。表7をご覧ください。行動制限をした人、つまり精神症状が前から悪化しているか、新たに悪化している。行動制限ありは、重症群ということになります。これらを図にすると以下のようになります。

 

行動制限開始あり(N=41)開始なし (N=190)
最低リンパ球率(%)27.232.2**
最低リンパ球数(μL)15351863**
表9 発熱者を除いた行動制限の有無

 次に、発熱者を除き、新入院、長期入院を含めて、4-6月に新たに、行動制限を1回でも始めた人、つまり、行動制限を用するほどの病状の悪化をみた人を調べました。すると、最低リンパ球率、最低リンパ球数ともp<0.01で有意に、行動制限を開始した人では平均値が低下していました。図にもしてみました。

 ともかく、これらからいえることは、この4-6月に、精神症状が悪化した群では、そうではない群と比べて、リンパ球率とリンパ球数の平均値が有意に低下していたということです。それは、なぜかですが、コロナウイルスがこの期間に流行っており、コロナウイルスの密かな感染により、精神症状をきたし、同時にリンパ球も低下したという仮説が立てられます。(第1の仮説)
 もう一つは、そもそも精神疾患の発病でなく、再燃や病状の悪化、重い症状の出現には、脳の炎症が関与しており、それは例えばインターロイキン6の活性の高まりと関係しており、それらのサイトカインが精神症状の悪化を促進すると同時に、リンパ球の低下を推進するという仮説です。(第2の仮設)

 これらの仮設のうち、どちらが真実かですが、それは、これからもリンパ球の測定を継続し、コロナウイルスのまん延が収まった時に、精神症状の悪化者のリンパ球がどのような動態を示すかによります。(2020年8月31日追加)

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