精神疾患のバイオマーカーとしての血液像について(医療関係者様向け)

要約

 精神科入院患者の血液像を調べた。急性期群と行動制限群では、寛解状態にある対照群に比較して、好中球率の増加、リンパ球率の低下、好中球比率/リンパ球比率の上昇を平均値の差の検定で認めた。これらは、統合失調症群、気分障害群で同様にみられ、疾患特異性はなかった。従来の知見と合わせ、次のような仮説を提示する。病態が活発な時期においてみられる血液像所見は、脳神経系の炎症、臨床的には陽性症状の活発化を示しており、炎症は脳細胞の傷害を引き起こし、非可逆的な人格水準の低下や陰性症状の発現に導くと考えた。血液像は、病態の評価や治療を進める上での貴重なバイオマーカーとして利用できる可能性がある。

はじめに

 というわけですが、できるだけ、簡単にわかりやすくお話しします。最近はあまり言われなくなったですが、精神疾患は、心因性、外因性、内因性に分類されます。この中で内因性精神病は、原因の分からない精神病群であり、そのため、診断や重症度判定をするための生物学的指標はないとされてきました。でも、最近少しずつ、統合失調症等で生物学的マーカーが取り上げられるようになりましたが、日常臨床で使えるものはないといっていいでしょう。今回私は、白血球の血液像検査で精神疾患の増悪期に通常と異なる白血球分画を示す患者が多いことに気づき、3か月間にわたり調査を続け統計学的な検討を行いました。その結果、精神症状の悪化と関連する血液像の変化を統計学的にも認めたので報告させてください。

対象と方法

 2020年4月から6月の3か月間に、新しく入院した患者さんで血液像を調べた人が70人います。この70人を急性期群としました。また、同期間中に精神保健法上の行動制限(隔離および身体的拘束)を1回でも行った患者が51人おり、これを行動制限群としました。さらに、同年3月以前から長期入院し、1日も行動制限がない患者が141人いました。この患者は、精神疾患の陽性症状が目立たない群であり、この群を対照群としました。(省略)

結果

1. 対象者の特徴

 表1に3群の特徴を示しました。行動制限群が最も若く、続いて急性期群であり、対照群は最も高い62.0歳でした。ICD分類では、急性期群では、F2統合失調症圏が50.4%、F3気分障害群が24.3%であったが、対照群では、それぞれ、81.6%、6.4%でした。近年の精神科病院では、高齢の統合失調症を中心とする慢性期患者と、より若年で、急性症状を呈して短期入院する患者が二極化しており、後者には気分障害圏の患者も多くなっていますが、本研究の対象者はそういった現代の典型的なわが国の精神科事情を示す集団だといえましょう。

表1 対象者の特徴

 急性期群(70人)行動制限群(51人)対照群(141人)
年齢(歳)54.1±17.0**51.4±17.0**62.0±11.7
男女比(男:女)29:4120:3171:70
ICD F2:F3(%)50.4:24.3††66.7:11.881.6:6.4
**p<0.01(vs 対照群)t-test   ††p<0.01(vs 対照群)χ2乗test

2. 急性期群と対照群との血液像の比較

 急性期群と対照群の血液像の各要素についてt-検定を行い比較したところ、表2のようになりました。検査機関からは白血球数に対する比率で各項目が報告されます。好中球率/リンパ率比も検討に加えました。白血球数の平均は、急性期群が対照群より有意に多く(p<0.05)、好中球率は、急性期群に有意に多く(p<0.01)、リンパ球率は急性期群で有意に低下していました(p<0.01)。また、好中球比率/リンパ球比率は、対照群に比べて急性期群で有意に高値でした(p<0.05)。

表2 各群の白血球血液像

 急性期群(70人)行動制限群(51人)対照群(141人)
白血球数(/μL)6441±2518*6037±24655661±1480
好中球率(%)60.3±13.6**60.8±12.1**54.7±10.6
リンパ球率(%)30.3±11.7**30.2±11.0**35.2±9.9
好中球率/リンパ球率3.38±6.02*3.41±6.611.86±1.60
*p<0.05、**p<0.01(vs 対照群)t-test

 検査の基準値は、白血球数3300-8600/μL、好中球率48-61%、リンパ球率25-45%となっています。これらの基準でヒストグラムをみたところ、図1、図2のようになりました。好中球率は、対照群で基準の61%を超える割合が24.1%であるのに対して、急性期群では、42.9%が基準を超えており、χ2乗検定でp<0.05で有意に分布に差がみられました。リンパ球率は基準の25%未満の率が対照群で15.6%であるのに対して、急性期群では34.3%と2倍以上に達し、p<0.01で分布に有意な差がみられました。ずいぶんと違います。

3. 行動制限群と対照群との血液像の比較

 行動制限群では、表2のように、好中球率がp<0.01で、t-検定で対照群に比して有意に高い値でした。また、リンパ球率がp<0.01で有意に対照群に比して低いです。図3のように、対照群で好中球が基準の61%を超える割合は24.1%だったのに対して、行動制限群では43.1%が基準値を超えており、有意な差がみられました。リンパ球率が基準を下回る割合は、図4に示したように、対照群が15.6%だったのに対して、行動制限群では2倍を超える31.4%に達しており有意な差がみられました。

考察

 統合失調症(F2圏)や気分障害(F3圏)は、原因の不明の内因性精神病とされますが、エビデンスに基づいた精神科医療のためには、容易に使用可能なバイオマーカーの発見が強く望まれます。

 私が初めて気が付いたかと思いましたが、5年くらい前から同じような報告があります。Semizら8)は、統合失調症の患者156人と健常対照群89人の好中球数とリンパ球数の比率(neutrophil/lymphocyte ratio=NLR)を比較し、p<0.01で有意に統合失調症の方が高いと報告しています。彼らは、2014年のこの報告がNLRと統合失調症との関連を示した最初の研究であるとしています。Kulaksizogluら4)は、統合失調症患者での,好中球、NLRの増加、リンパ球の低下を2016年に報告し,Özdinら6)は、双極性障害患者でのNLR高値,リンパ球数の低値,統合失調症での好中球の高値、リンパの低値を2017年に報告しました。Yükselら9)は、統合失調症患者の健康対象者に対する白血球、好中球、単球、NLRの高値を2018年に,Özyurtら7)は、青年期のうつ病患者でのNLRが高値を2018年に報告しました。Karageorgiouら3)は、メタ解析から、統合失調症患者では、慢性期と初発エピソードの両者ともNLRが高くなっているとしています。

 みんなだいたい同じです。健常群と比較して、好中球率高値、リンパ球率低値、NLR高値が統合失調症や躁うつ病でみられるということです。私の研究では、対照群を健常群でなく長期安定した疾患群とした点が先行研究と異なります。健常者のデータが得られませんでしたのでそうしたのですが、これで、その病気になっているかいないかのマーカーではなく、現在の活動性を示す指標であるということがわかりました。また、先行研究と同様にF2圏、F3圏で血液像に有意な分布の差はみられませんでした。これらのことから、血液像の特徴は、統合失調症や気分障害の原因と直接かかわるものではなく,素因があった場合に病状を悪化させ顕在化させる増悪因子と関係するものでないかと考えられます。

 Semizら8)、Yükselら9)は、NLRなどと重症度は相関しなかったといいます。一方、Kulaksizoglu ら4)は,重症度を示すPANSS陽性サブスケールとこれらの間に相関関係がみられたとしています。入院回数、罹病期間などの病歴や陰性症状を指標とした場合には患者のNLRと重症度と関係はないのです。その時の陽性症状の重症度を指標とした場合に関係がみられるのは、本研究でも同じです。本研究によれば、仮に統合失調症、気分障害と診断されていても陰性症状中心の寛解期であれば、これらの所見は乏しく、現在の血液像の変化はアクティブな陽性症状と関係するといえます。

 これらの血液像の変化のメカニズムですが、先行研究の報告では、脳の何らかの炎症ではないかとするものが多くなっています。Semizら8)、Özdinら6)は、統合失調症と双極性障害の炎症仮説を支持するものだという。従来、統合失調症患者の血液中には、インターロイキン-6などの炎症性サイトカインが多いなどの理由から、脳の炎症が起こっており、それによって精神症状や異常行動が生じるという仮説があります2)。わが国でも熱心に研究していらっしゃる方がいます。サイトカインは、抗体の産生や白血球の分化などに関係しており炎症も生じさせます。陽性症状は、自然軽快することもありますが、抗精神病薬の作用により、直接的,間接的に炎症の鎮静化が促進されます。陽性症状が軽快すると、多くの場合に不可逆的な陰性症状が生じて慢性化したり生活能力が低下したりします。特に統合失調症では、再燃を繰り返すたびに人格や生活能力の水準が段階的に低下していくことありますが、脳に炎症を起こすたびに脳機能の不可逆的な低下が生じると仮定すると、実際の症例の経過をよく説明することも可能で,炎症(初発)→脳細胞傷害→人格水準低下、陰性症状出現→炎症(再燃)→脳細胞傷害→人格水準低下、陰性症状増悪という図5に示したモデルを提示することができます。通常、これらのサイクルを繰り返しながら進行していくことが多いと考えらます。

 安保1)は、顆粒球はアドレナリン受容体をもつので、交感神経緊張状態と相関し、顆粒球が70%以上、リンパ球が28%以下となると、交感神経刺激症状、精神症状が現れるとしています。顆粒球が細菌の貪食を行う際に放出する酵素や活性酸素は、細菌処理だけでなく、組織破壊を引き起こし、しかもそれは常在菌でもあり得ることで、交感神経緊張状態で顆粒球増多の背景があるとあらゆる組織の組織障害が引き起こされる可能性があるといいます。

 これらのことを鑑みると、血液像の変化の生じている期間は、炎症が継続し脳細胞傷害が進行しており、陽性症状から陰性症状へと移行していく過程にあると考えられます。その間の脳細胞への傷害を食い止めるためには、炎症を早期に収束させなければなりません。そのためには、脳の炎症の早期収束をターゲットとした抗精神病薬療法の検討や炎症を軽快させる新たな薬物の探索、経時的な血液像のモニターなどが重要になってくると思われます。これらの検査所見の検証はさらに必要ですが、臨床現場で容易に使用可能な指標としての意義は極めて大きく、また、統合失調症や躁うつ病の病態生理を知る上でも有用であると考えられます。

文献

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2020年10月25日

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