うつ病になった二宮金次郎 最終稿

おわりに

金次郎は,日記の最後に「予が書簡を見よ,予が日記を見よ,戦々兢々深淵に臨むが如く,薄氷をふむが如し」と記しています。この言葉,どこかで見たことがあります。論語巻第四泰伯第八に曾子の言葉で,彼が病で床に臥せったとき,弟子たちを呼んでこう言っています。「わが足を見よ,わが手を見よ。詩経には戦々兢々として,深淵に臨むが如く,薄氷を踏むが如しとある。これから先はもうその心配がないねえ」。金次郎は,どうして,曾子の言葉を最後に日記に書いたのでしょう。高邁な理想,強い使命感とによる緊張,そして,至誠神の如しという超越の間で生を全うしたのでしょうか。

 ありがとう。金次郎翁。あなたは鑑三が言う通り代表的日本人です。うつ病者にも力を与えてくれます。あなたのような聖人もうつ病を乗り越えてきたのだから。

文献

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