優しくありなさい その5


 「優しくありなさい。あなたの出会う人々は皆,困難な闘いにいどんでいるのだから」という名言の出所を探す旅を続けています。この言葉をタイトルとする書籍ではプラトンの言葉とされていますが,そうではなさそうだというところから調査を始めました。

 今度は,ネットでプラトン研究者を探し,科学技術振興機構を通じてメールで問い合わせてみました。某国立大学の人文学部T教授が親切に,そしてわずか24時間以内にお返事をいただきました。
「管見の限り、プラトンの対話篇中にはありません。他方で、「困難な闘いにいどんでいる」という点は、文言としてではなく、ソクラテスの活動についての理解としてはあり得るものです。推測ですが、書籍の著者は、プラトンが描くソクラテスの姿を踏まえて、「優しくありなさい。あなたの出会う人々は皆,困難な闘いにいどんでい
るのだから」と語り、それがプラトンに基づくものと主張した可能性があります。」とのことでした。

そして,「「困難な闘いにいどんでいる」という表現は『ソクラテスの弁明』『クリトン』『国家』のなかにはありませんが、それを思わせるような箇所はあります。以下、いくつかを挙げておきます。『ソクラテスの弁明』・(「手ごわい告発者」18c)を相手に)「だれも答える者のいない状態で、ひたすら影と戦うようにして弁明し反駁しなければならない」(18d: 三嶋輝夫訳)。
・「それがどこであれ、人がいちばんよいと考えて自分を配置したり、あるいは指揮官によって配置されるその場所に、人は踏みとどまって危険を冒さなければならないのです。」(同28d)

『クリトン』・「あの時ぼくたちが言っていたことは何にもましてあのとおりなのであって、大衆がそう言おうと言うまいと、またぼくたちが今よりももっと辛い目に遭うか楽な目に遭うかには関わりなく、不正を行うことは、すべての場合において、不正を行う者にとって害悪であり、恥辱である」(49B:田中享英訳)

『国家』(イデア論が語られる中心巻(5~7巻)の議論の導入に際しての言葉です。)
・「国制の問題について、まるで最初から出直すのと変わりないような、どれほど大へんな議論を君たちはあらためて呼び起してくれるのか!」(Rep.450A:藤澤令夫訳)
・「それを話すのは容易なことではないのだよ。何しろ、これまでわれわれが語ってきたさまざまの事柄とくらべてさえ、さらに多くの疑問を与えずにはいないようなことだからね。」(同450C)
・「故意でなく人殺しになることのほうが、何が美しく善く正しい制度かということについて人を誤まらすよりも、まだしも罪は軽いという気がするからね。だからこんな危険をおかすのは、・・・」
(同451A)

(カッコ内の英数字は翻訳上部に付されているステファノス版プラトン全集の頁数と段落記号)

とのことでした。T先生ご多忙の中大変ありがとうございました。というわけで,プラトンの書いたものの中には,一致するところはなさそうです。T教授は著者に好意的に解釈され,プラトンから見て,ソクラテスが困難な闘いに挑んでいる人と著者はみて,プラトンの言葉としたのではないかということです。

次は,出版社の編集者が教えてくれたこの言葉の英文「Be Kind; Everyone You Meet is Fighting a Hard Battle」でネットで調べてみました。そうしたら,面白いことが分かってきました・・・・・。

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